2005年4月28日木曜日

神鳥-イビス/篠田節子

ibisuこの本、以前、篠田節子の本をまとめ買いして、読まずに積まれていたもの。ふいに読み始めたら止まらなくなって、結局一気読みしてしまいました。マジ、恐いです。恐くて恐くて、でも先を読まずにいられない。気が付くと全部読んでしまい、その後も恐さが後を引くというたちの悪い小説。
内容は、人気バイオレンス作家と、女性イラストレータのコンビが、明治時代の画家、河野珠江の壮絶な絵画の謎を追っていくうちに、時空を超えた恐怖体験を味わうというもの。スケベ男とカタブツ女の凸凹コンビは、2時間ドラマ的な俗っぽいキャラ設定。こういうあたりはエンタメ小説の王道なのだけど、しかしこの作品の恐怖感はありきたりのものではありません。しかも、結末も結構救いがない。「リング」なんかもそうだけど、これも単純なハッピーエンドで終わらないタイプのホラー。思わず、小説の後の出来事を想像しちゃって、それがまた尾を引きます。
おかげで、夕べはなんだか目が冴えちゃって、あんまり眠れなかったのです・・・

2005年4月26日火曜日

密会/安部公房

mikkai自分では安部公房という作家を結構好きなつもりだったのだけど、ここのところ「箱男」「密会」と二冊読んで、あらためてその前衛的な作風に触れると、好きだなんて軽はずみに言えないような気がしています。
何というか・・・、読むのにとても頭を使わせるのです。毎日少しずつ読んでいると、ちっとも頭に入ってきません。集中して一気に読む必要があるのです。
さて、この「密会」、どんな話かというと、大まかに言えば、ある男の妻が突然、救急車に連れて行かれ、男は妻の行方を捜すために、病院の大迷宮の中をさまよっていく・・・といったところ。しかし、二本のペニスを持つ馬人間、この男に好意を持つ女秘書、自慰行為を続ける溶骨症の少女、といった変態的なキャラがこの男を翻弄していきます。
ある意味、ハチャメチャなのだけど、シュールというのとはちょっと違う。バカバカしくなりそうな設定なのに、どこまでもシリアス。それに、小説の時間構造が操作されているため、読者は何度かわけがわからなくなります。それらも計算ずくのようで、そうでもないような気もするのです。
それにしても、この小説の中の病院は、忘れがたいほど幻想的なイメージを読後に残します。本当に夢の中の情景のよう。それを楽しむだけでも、この本を読む意味はあるかも。
最後の場面で、自分の妻と思しき女が、大衆の面前でオルガスムコンクールなんてのに参加している、なんてシチュエーションはまるでアダルトビデオのようだけど、こういったストーリーを平気で紡いでいく安部公房という作家、やはり私にはとても不可解なのです・・・

2005年4月23日土曜日

多重録音しよう -エフェクト篇-

最近のDAWと呼ばれるレコーディング用ソフトの面白い点は、プラグインと呼ばれるソフトエフェクトをかけることができるというのがあります。
プロのスタジオ録音というと、どでかいミキサーがあって、コンプレッサ、イコライザ、リバーブ、ディレイ、コーラスといった専用エフェクトの機材をそれに繋げて音を加工したりするわけですが、そういった過程がパソコン上でシミュレーション出来てしまうのです。こういった技術の発展で、実際のところ、プロのレコーディング作業も最近ではかなり変わっているようです。
そんなわけで、それだけのエフェクターが自由に使えればプロ並みの音を作ることができるはずですが・・・、どんなに道具が揃ってもそれらの効果的な使い方を知らなければ、プロ並みの音は出ないんです。当たり前だけど。そういったノウハウは、音楽雑誌などに詳しいのだけど、結局音を聞いて自分で判断する必要がある以上、その判断力こそがプロである証になるわけですね。
そんなわけで、まだまだ自分でもエフェクトの使い方がこなれているとはいえません。特にボーカルレコーディングのみなので、コンプレッサ、リミッタあたりがもう少し、上手に使えればと思います。いくらエフェクトをかけても歌はうまくなりませんが、かなり聴きやすくなることは確かです。
素人くさいエフェクトのかけかたの代表格は、リバーブ(残響)を派手にかけてしまうこと。これだけは、陥りまいと全体的には浅めにかけています。

2005年4月19日火曜日

コンスタンティン

なんというか妙な映画だなあ~というのが率直な印象。
悪魔とか天使とか神様とか、そういうのがたくさん出てきて不思議なことがたくさん起こるのだけど、それが出来るなら何でもありじゃん、と突っ込みながらも、ストーリーに出てくる各キャラの行動のせこさがいまいち解せません。
キリスト教の天使とか悪魔に関する言葉が頻出しますが、知識層を楽しませようとする魂胆がちょっと見えたりして、あんまり素直に反応できなかったのが正直なところ。あれはね、こういう意味なんだよ、とか自慢したがる連中が出てきそう・・・
結局ストーリーで良くわからなかったことがたくさんあったけれど、映画の雰囲気だけ楽しんだ感じ。映像はとてもファンタジックで良かったです。それだけでも見る価値はあるかも。
正直言ってかなりシブい映画でした。一つだけ忠告。もし見に行くようでしたら、エンドロールが終わるまで席を立たないでください。

2005年4月16日土曜日

新聞小説「讃歌」/篠田節子

新聞小説なんてこれまで読み続けた試しはなかったのだけど、今回、朝日新聞の新聞小説「讃歌」ついに読みきりました。本日の掲載が最終回。毎日読み続けていると、時間がなくてもここだけは読みたいという、そういう気持ちを経験することが出来ました。
それで、この小説、どんな話かというと、人の心を揺さぶるヴィオラ演奏家、柳原園子のドキュメンタリーテレビ番組を作る小野が主人公で、番組の放映から柳原園子がブレークし、クラシック界での異例のヒットとなる一方、園子に対して賞賛と批判が渦巻いていく、といった感じ。そして、ついに最後には園子が自殺して話は終わります。
最初の頃は、音楽の素晴らしさの描写がなんか陳腐な感じがしていたのだけど、それはどうも作為的だった感じがしてきます。つまり園子の音楽は、表情過多な日本的で演歌的な演奏なのだけど、クラシック界の正統的な批評家からは、彼女の音楽が演奏の基本も出来ていないような質の低いものと捉えられるわけです。
そこに、視聴率を稼ぎたいテレビ製作会社、CDを売りたい音楽事務所などの思惑が絡みます。小野はクラシックには縁がない素人という設定。だから、その小野が最初の段階で園子の演奏に心奪われるというのが、ある意味この小説の象徴的なエピソードになるのです。
いい音楽とは何か?こういった疑問を投げかけてくるなかなか味わいのある小説でした。作家の篠田さん自身も確か、弦楽器を練習されているとか。そうやって音楽のプロの世界を深く知れば知るほど、一般大衆との音楽の認知の乖離が生じてくる、その不条理がこの小説でよく表現されていると思いました。

2005年4月15日金曜日

恥ずかしい歌声公開

さんざん多重録音ネタを書いていたのだから、出来た作品は公開しなければ説得力ありません。というわけで、恥ずかしながら私と妻と二人で多重録音した作品を、ネット上にアップしました。
場所は、ヤマハの「プレイヤーズ王国」というアマチュア音楽愛好家のための音楽投稿サイト。「Unit1317」というプレーヤ名で登録してあります。場所はここ。アップ曲は、高知県民謡の「よさこい節」です(もちろん私のオリジナルアレンジ)。
妻は、まあ、いちおうソプラノとして活動しているから良いとしても、私の歌はかなり恥ずかしいです・・・(特に喉が締まったテナー声)。今度はもっと自分のパートが低くなるようにアレンジしなければ。
そんなわけですので、まずは私の環境で製作した多重録音作品、よろしかったら聞いてみてください!

2005年4月9日土曜日

フォルテ、ピアノの数

フォルテが二つ(ff)あればフォルテシモ、三つあれば(fff)フォルテッシシモ。
曲によっては、4つついたり、場合によっては6つついたりしますが、音量記号としての f, p っていくつまで意味があるものでしょうか。
私は昔から、こういった表現記号のインフレーション状態があまり好きではなく、過剰に楽譜に言葉を書き込んだり、f, p をたくさん重ねて書いたりしないようにしてきましたが、その一方、そういう表現の過剰さにこそ、作曲家の個性を発揮されている人もいます。
だいたい本来、「強く」と「弱く」を二つ表現するために、フォルテ、ピアノが生まれ、その中間を埋めるために mf, mp があるのですから、そういう経緯からいうと私的には、フォルテシモ、ピアノシモが(要するに二つまで)が意味ある表現の限界だと思っています。(と言いながら、fff, ppp も書いたことがあるけど)
��つ以上になると、もはや気持ちの問題。だから、三つなら、とんでもなく「強く」あるいは「弱く」と言えるわけですが、4つになると正直首をかしげますねえ。こういう表記があるだけで、mf, mp の差なんかどうでもいいじゃんと思えてしまいます。
だから、フォルテ、ピアノをたくさん重ねて使う場合、よほど作曲側は抑制しなければならないと私は思います。そうでないと、結果的に音楽全体をぞんざいに扱われかねないからです。逆に、演奏側としては、作曲者がどういった基準で音量記号を書いているか気にするだけでも、作曲側の気持ちが透けて見えてくるのではないでしょうか。

2005年4月7日木曜日

スタインバーグから来たDVD

先週くらいか、突然スタインバーグ社からDVDが送られてきました。スタインバーグ社とは、私が使っている音楽製作ソフト「Cubase SX」を作っている会社。
そのDVDの中身は、スタインバーグ社の製品である Cubase 及び Nuendo を使った音楽製作の様子を、作曲からCDを作るための最終のマスタリングの過程まで紹介したものです。約1時間半のこのDVD、内容はかなりマニアック。Cubase といっても素人もたくさん使っているわけで、ほとんどプロ向けと思えるこの内容を、スタインバーグ製品を持っているユーザに無料で送ってくるのは何とも大判振る舞いに思えてしまいます。
スタジオでのマイキングや、超高価なエフェクタの使いこなし方、はたまた歌手の褒め方まで(!)、まあ雰囲気を知るにはなかなか面白い内容ですし、私も仕事柄、実際のレコーディングの様子を知るには良い勉強になります。
このDVD、実はくらしき作陽大学の音楽デザイン学科(?)で実際に使う教材らしい。こういった音楽製作やスタジオワークに憧れる若者は多そうですが、東京の専門学校ならともかく、なかなかシブい場所でシブいことを教えてるんですね・・・
ちなみにDVDのメインキャストであるキーボーディスト吉川洋一郎って、戸川純がボーカルを務めるアングラバンド、ヤプーズのメンバー。実はヤプーズのCD、私、結構持ってるんです。思わず親近感が。

2005年4月4日月曜日

多重録音しよう その2

多重録音とは何かというと、つまり、一度に全パートを録音せずに、一パートずつ別々に録音するということなわけです。従って、アカペラでいうなら、ソプラノ、アルト、テナー、ベースと4パートなら4回別々に取るわけです。
このとき要求されるアンサンブル能力というのは、通常の合わせのときとまた少し異なるものです。指揮者と演奏者全体がその場その場で音楽を作り出すような通常のアンサンブルのシチュエーションと違って、常にガイド用に作られたクリック音やカラオケを基準にし、それに各演奏者が合わせるという作業が必要になるのです。それは一見、アンサンブルによる生きた音楽感覚をスポイルするように思えますが、まあはっきり言わせてもらうと、私のような素人レベルではそんな偉そうなことを言えるレベルじゃないという状態だったりします。
だいたい、クリック音に合わせて歌っているつもりなのに、全然走っていたりとか、フレーズの難しさにテンポ感が連動していて、リズム感のない情けない録音となって、容赦なく自分の下手さ加減が暴露されるわけです。
もちろん、一発取りのほうが全体の雰囲気やアンサンブルの面白さをよく捉えることが出来るのでしょうが、それはある程度うまく歌える人たちの話。まず自分自身の演奏家としてのソルフェージュ力と、敢然と向かい合う必要があります。そこで打ちのめされてだいたいやる気をなくしてしまうのだけど・・・
こういった録音の便利機能として、特定の箇所だけ録り直しすることができます。いわゆるパンチイン、パンチアウトというヤツです。ただ、これもなかなか難しくて、後で特定箇所だけパンチイン録音すると、音量とか音質とか、歌いまわしなんかが前後と微妙に違ったりして、意外と難しいことが分かります。こういったときなど、音楽の流れというものの大事さを痛感します。