2011年8月11日木曜日

音楽で飯は食えるか? まつきあゆむの場合

まつきあゆむというアーティストをご存じでしょうか。
たまたま某講演で本人の話を聞く機会があり、すっかり影響された私は彼の新しいアルバム「あなたの人生の物語」を購入しました。29曲入り2000円です。

このアルバムはどのように購入するかというと、まつきあゆむ本人のサイトに行き、必要な説明を読んだ上で、直接本人にメールを送るのです。そうすると決済用のPayPalのURLが送られてきて、送金処理をするとアルバムがデータで送られてきます。中身はmp3や各種リーフレットとしてのjpegファイルです。
いずれも、個人で出来る範囲の方法であり、このシステムを構築するのに大きな負担も必要ありません。つまりやる気があれば誰でも構築できる程度のものです。
まつきあゆむの場合、こういったスタイルで音楽を売ること自体が話題になったこともあり、現在この方法だけで生活が成り立っているとのこと。レコード会社からマージンを取られることも無いので、アルバムの値段2000円はまるまる彼の懐に入ります。単純に計算すると、500人購入で100万円の収入です。

では、具体的にまつきあゆむはどのようにしてこの音楽を作っているのでしょう。
これらの音楽製作は基本的に全て宅録です。本人がコンピュータ一つで音楽を作っているのです。もちろん、作詞作曲は本人。DAWという音楽製作ソフトの上で、自ら楽器を弾き、歌を歌い、ドラムや効果音などをプログラミングし、さらにエフェクトをかけ、ミックスダウンしてマスターを作ります。これらはいずれもそれなりにプロフェッショナルな作業ではあるのですが、情報を収集さえすれば、個人でも不可能ではありません。
事実、世の中にはたくさんの音楽製作マニアがいて、例えばボーカロイド界隈でもプロ並みの楽曲を作っているアマチュアアーティストがたくさんいるのはご存じの通り。

以上のことは、単に事実を述べているに過ぎません。
そして、誰でもこんなことが簡単に出来るわけではありません。
それは具体的に彼のサイトに行って、その中身を見たり、実際に彼の作った音楽を聴けば分かることです。彼の音楽家としての才能、アーティストとしてのスタンスや、曲の魅力、サイト全体やTwitterからの発信などから透けて見える個性や人間的な魅力、そういったものがあるからこそこういう事例が成り立っているのです。
また、誰かがブレークしたとき、その理由は必ずしも本人の才能や魅力だけでは無い側面もあります。有名な人に取り上げられたとか、有力なチャンネルで紹介されたとか、そういうきっかけもとても重要です。

しかし、このような事例は、レコード会社主導の売れなくなれば捨てられるアーティスト生産システムとは、明らかに方向性が違います。
才能のあるアーティストが地道に自分の作品を発表し続け、それを誰かが認めてくれ、Twitterなどで簡単に拡散され、ある日いきなり音楽で飯が食える、という状況が実現する可能性があるのです。
そのために必要なのは、アーティストの不断の努力です。歌が上手いだけでなく、楽器が上手いだけでなく、場合によっては事務作業も厭わず、ある程度のITリテラシーを持ちつつ、なおかつ個人が魅力的で、常に情報発信を心がける、そういうことをずっとやり続けられる人間でなければなりません。

私自身も昔からJ-POPまがいのオリジナル曲を作っていた時期もあるので、まつきあゆむのような事例は大変興味を持ちました。
じゃあ、彼の作った音楽はどうだったかって? もちろん、素晴らしかったです。一見歌はヘタウマっぽく聞こえるけど、ああいった語りかけとボーカルエフェクトの組み合わせの妙が独特のメランコリーを生んでいるように感じました。詩もいいですね。今どきのIT用語をうまく詩情に乗せていて、熱く未来を語るインテリ好青年という感じ。もし興味があったら聴いてみて下さい。

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