2012年9月1日土曜日

ワークシフト/リンダ・グラットン

某所で課題図書となっていたので、早速入手して読んでみました。

上のブログでも書かれているとおり、これから数年くらいのうちに社会に大きな変化が起きるのではと私も思っています。
そんな折、私たちはこれからどのように働いていくべきか、について言及したのがこの本。この本では、私たちの働き方において、三つのシフトを実現すべきだと言っています。一つ目はスペシャリストになれ、二つ目は有用な人間関係を築け、最後は消費を美徳とする価値観から転換せよ、という三つのシフトを著者は主張しています。

この本の面白い点は、非常に構造的な内容の構成にあります。
まず最初の第一部では、現在進行している様々な兆候から未来はどうなるかを推測します。著者が予言する未来は、5つの大分類と32の項目として箇条書き的に展開されます。
次の第二部では、「漫然と未来を迎えてしまった人」がどのような未来の生活を送っているかを三人の例で具体的に描写します。その未来は2025年。それほど遠くない未来です。
第三部では、逆に「主体的に未来を築いた人」がどのような仕事の仕方をしているのかを同じく三人の例で具体的に描写します。
そして、最後の第四部で著者が主張したい三つのシフトについて詳細に説明します。

真ん中の第二部、第三部の具体例は、著者の伝えたい内容を表現するには一見冗長のように感じますが、そのディテールの細かさから説得力が増すことにつながり、著者の主張を補強する役割を担っているのです。

この本を面白いと思うかどうかは、ここまで未来がドラスティックに変わるだろう、という主張を受け入れられるかどうかにかかっていると感じます。
例えば、未来予測の要因1の3番「地球上のいたるところで「クラウド」を利用できるようになる」。もちろんクラウドという言葉は、IT界隈では重要なキーワードとなっているわけですが、世間一般の人々にとって実際の生活を変えるほどのリアリティがまだありません。リアリティが無ければ、そんなのただの流行りだろう、と考える人も出てきます。
しかし、理詰めで考えれば、端末さえあれば自分の作業環境がどこでも再現できることは、将来の労働環境を考えると大きなインパクトがあるのは私には明白だと思えます。
同様に未来予測の要因1の8番「バーチャル空間で働き、「アバター」を利用することが当たり前になる」。こういうのがビジネス書みたいな本に書かれると、ネットの風俗と労働することが容易に頭の中で結びつかず、何言ってんの?と思う人もいるかもしれません。
これとて、ネット内で仕事の取引が頻繁になれば、アバターが自分を表すアイデンティティとして重要なるだろうと想像することは出来るはずです。

要因3の8番では「ベビーブーム世代の一部が貧しい老後を迎える」と言っています。
ベビーブーム世代とは、戦後に生まれた私より20歳くらい上の世代ですが、このくらいの年齢の人たちでさえ、例えば政府から年金が十分にもらえなくなり、かなり貧しくなる人が出てくるだろうと言っています。
これはもちろん、あり得る未来ですが、見たくない未来でもあります。誰もが(特に日本では)年金行政の破綻の可能性について心配しています。年金や社会保障はこれから益々削られ、税金も高くなる。これも残念ながら、欧米,日本では確実に起こる現実だと著者は主張します。

その前提の上で著者は、私たちは自分が生涯働き続けるために、専門性を持ったスペシャリストであり続け、多くの自分を助けてくれる人間関係を保持し、消費よりも働くことそのものが生き甲斐であるような人生を送れ、と話を進めていくのです。

たった10年程度で、ここまで世の中が変わる、という事実を今受け入れられなければ、著者のいう「漫然と迎える未来」が待っています。

しかし、それにしても、今私たちは一体どうしたら良いのでしょう?
会社はますます経営環境が厳しくなり、リストラが続き、人が減らされた職場では仕事だけが増え続け、それをこなすために長時間残業が繰り返される。
こういった負のスパイラルに取り込まれているうちには、「漫然と迎える未来」に突入するしかありません。とはいえこの状況から抜け出すこともまた難しいのが現実。

私が感じたのは、今すぐ会社を辞めて云々、という具体的なことではなく、自分の意識を変えることが大事なのだということ。
会社の仕事の中でも自分で変えられる裁量は多少はあるはず。また、業務外の自由時間をどのように使うかは全て自分で決定することはできます。
毎日の小さな一つ一つの選択が、ここ数年の自分の生きる方向のベクトルを少しずつ変えていく可能性があります。

そのように生きていくために、この本の内容を一つ一つ噛み締めることは、これからの自分の人生の選択のあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれると思います。


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