2014年9月27日土曜日

動かせる楽器と動かせない楽器

楽器と一括りに言っても、いろいろなタイプの楽器があり、それぞれの特性に応じて使用される場所や準備が異なります。
その中でも特にその楽器が動かしやすいかどうか、というのは楽器の特性に大きな影響を与えます。以下では動かしにくい楽器について、いくつか例を挙げて考えてみましょう。


持ち運べないと言ったら、建物と一体化しているパイプオルガンがまず思い浮かびます。
パイプオルガンは教会やコンサートホールを作るときにセットで設計され、一つ一つがほぼオリジナルの設計になります。
場所と一体化しているので、そのサウンドもその場所にオリジナルです。
最初からオリジナルであることが分かっているので、パイプオルガンは標準化された仕様というのがほとんど無く、場所によってパイプの種類や数が違います。特に教会では、演奏するオルガニスト自体がその楽器に専用の演奏者となっていることが多いと思います。
逆にコンサートホール等の場合は、演奏前にその曲をどういったパイプの組み合わせ(レジストレーション)で演奏するか事前に検討する必要があります。
動かせないから特殊化し、そのため標準化も進まず、演奏者がその楽器固有の対応をしなければならない、ということがパイプオルガンの事例から分かります。

建物と一体化していなくても、気軽に持ち運べない楽器と言えばグランドピアノでしょう。
ところがピアノはパイプオルガンと違い、世界中にあまねく普及し、標準化が進んだので、音楽を演奏するどのような場所でも標準装備されていることが多く、むしろそのためにわざわざグランドピアノを運ばなくても良い、というような状況になっている側面もあると思います。
こだわりのある一部のトッププロは自分のピアノを運ぶ、というようなことも聞いたことがありますが、それなりに繊細な楽器なので頻繁に運ぶことで受けるダメージを考えると、ホール等に備わっているピアノを使うというのが、少なくとも日本では一般的であるような気がします。
従って、グランドピアノは移動は出来るけれど、楽器そのものを運ぶことは購入時以外にはまるで考えられていないように思われます。

動かせないわけではないけれど、その設置に非常に手間がかかり、一人で持ち運べるというには程遠い楽器もあります。例えばドラムセットとか、ハープとか、チェンバロといった楽器類です。
こういったやや大型でセッティングの必要な楽器は、演奏者だけでなく運搬や設置を行なう専門の担当者が必要になったりします。
とは言え、ホールで常備するほど一般的ではなく、また奏者に依存する部分も多いので、こういった楽器は演奏の機会毎に移動せざるをえません。
ある程度演奏団体として態勢のしっかりした団体では、このような楽器のケアも可能ですが、個人単位では中々難しく、それゆえにこういう楽器はその特性ゆえアマチュアで演奏する人というのが非常に少なくなる傾向にあります。
ドラムも、バンド系楽器の中ではギターやキーボード人口に比べると、やはり少ないんじゃないでしょうか。


実は上記のような持ち運びにくい楽器こそ、電子で解決し易いというメリットがあります。こういった楽器類が電子楽器になりやすいというのは、オリジナルの楽器の特性が非常に影響していると思われるのです。

逆に小さくて持ち運び易い楽器はむしろ電子楽器で代替する必要性は少なく、だからこそ、オリジナルに似させるメリットもないという考え方も出来るでしょう。

電子楽器でどんなに面白いことが出来るかを考える際、こういったアプローチも必要かと考えています。

2014年9月21日日曜日

Raspberry Piからmbedへ

これまで私のmake活動はずっとRaspberry Piとともにありました。
おかげさまで、ちょっとばかりLinuxの世界に触れ、いろいろお勉強になったのは確かです。

Raspberry Piのように、小型のボードコンピュータやそのプラットフォームには、いまやいろいろな種類があるのですが、その中でどちらかというとCPU性能的には低いプラットフォームであるmbedに最近注目しています。


もともとは、OMMFのときにmbedを使っている人がいて、そこで初めて名前を知ったのですが(多分、これまでも耳にはしていたとは思うけど)、あらためて調べてみるとmbedはかなり魅力的かつ興味深いプラットフォームです。

何といっても、開発環境に全く苦労が要りません。
webでコーディング&コンパイル。出来たファイルをドラッグ&ドロップでUSBストレージのように見えるmbedに重ねればすぐに実行開始。
Linuxとか一切関係ないので、起動も速いし、何しろ余計なものが一切ありません。

Raspberry Piの場合、デスクトップコンピュータとして使われることを目指していることもあり、一通りのOSの起動と、キーボード入力、モニター出力が標準でしたが、mbedの場合(恐らくArduinoも)そのような使われ方を意図していません。
あくまで、ポートにスイッチやLEDを繋げ、各種センサーをシリアル通信で繋ぎ、組み込みマイコンとして使うことを想定されているわけです。

だから私のようにmake的なガジェットとして使う場合、むしろこちらのほうが便利な場合も出てきます。


私が今回mbedを試してみようと思ったのは、BLEを搭載しているこのボードを使いたかったから。
BluetoothはBLEでこれからかなりブレークしそうな勢い。もとよりAndroidもiOSも対応しているので、携帯デバイスとも親和性が高いです。

ようやくmbedのボードを手にした段階で試してみるのはもうちょっと時間がいりますが、いろいろ面白いことが出来るのではないかと期待しているところです。

↓私が買ったmbed HRM1017(かなり小さい)


2014年9月13日土曜日

人はなぜ楽器を弾くのか ー鑑賞としての演奏ー

楽器演奏者を趣味層、本格層と分けて、趣味層の嗜好と彼らへのアプローチについて前回書いてみました

今回はさらにこの趣味層の気持ちについて考えてみようと思います。

というのは、これは私の息子を見ていて思い付いたのですが、楽器を弾きたいということは、音楽鑑賞の一つの形態だと考えられるのではないかと感じたからです。


これまで音楽を聴くこととと楽器を演奏することは、行動としては全く別のものなので、漠然とその心持ちは違うものと思っていたのです。

ところが、息子の行動パターンを見ていると、「音楽を何度も聴く」→「その曲を歌う」→「その曲の伴奏があると一緒に歌いたくなる」→「楽器を弾いているのを見て、その旋律を弾きたくなる」という流れがごく自然なものに思えてきました。
つまり楽器演奏の入り口は音楽鑑賞と続きの関係にあるのではないかと考えられるのです。



音楽鑑賞から自らが音楽を生み出すまでの流れを図にしてみました。

ある音楽が気に入ったとき、その人はその音楽を何度も聴くと思います。
何度も聴いているうちにその音楽を口ずさむようになります。
もし、幸いなことにその人の周辺に楽器があり、弾きたくなるような環境にあるのなら、その楽器でメロディを奏でたくなると思います。

メロディを楽器で弾くことによって、音楽は頭の中で(演奏情報として)コード化され、音楽の再現性が飛躍的に高まります。
このような経験を重ねることで、気に入った音楽を何度も自分で反芻できることの喜びを感じ、その結果メロディはより強固にその人の心に刻まれることになることでしょう。

また、楽器演奏を重ねることによって、体系的にでなくても、その音楽に潜む気持ちの良さ、あるいはその音楽の特徴をつかむきっかけに繋がります。
3拍子とか4拍子とか、リズムの種類とか、転調とか、変化音とか、こういうことを感覚的に覚えていくわけです。

このようなことを理解できた人は、それを自分のさらなる演奏向上に結びつけようとしたり、それを応用してオリジナルな世界を追究しようとするのではないでしょうか。


楽器演奏の趣味層の入り口は、気に入った音楽のメロディを楽器でなぞることにある、というのが今のところの私の結論。

もし、そうであるとすると、入り口では単旋律のメロディを弾けることが重要と意識することによって、楽器入門のあり方がもっとクリアになってくるような気がしてきました。





2014年9月1日月曜日

人はなぜ楽器を弾くのか ─趣味層と本格層─

一人で弾いて楽しむだけの人、他の人に聴いてもらうために演奏する人、楽器を弾く人をこのように分けるなら、圧倒的に多数の人は前者に属します。
ひとまず前者を趣味層、後者を本格層と呼ぶこととします。

趣味層は大多数ではあるのですが、この人たちの行動パターンは本格層の動向に左右されます。演奏についてはある種のヒエラルキーがあり、必ずしも大多数の意向が反映された楽器が売れるわけではありません。この辺りは、芸術に属するビジネスの難しいところではあると思います。

前回、この話をブログに書いたときは、趣味層だけでなく本格層にリーチするような厳しい世界に耐えうる楽器であることが必要ではないか(ちょっと違う表現ですが)といったようなことを主張しました。

とは言え、大多数の趣味層にとっても重要なアプローチはあるのかもしれない、という視点で今回は考えてみたいと思います。


まず、その楽器の敷居の高さは趣味層、本格層の比率に大きな影響を与えると思います。
敷居の高さをもう一段階噛み砕いて言うと、最初に楽器を手にしたとき、いきなりまともな音が出せる楽器かどうか、ということです。
マウスピースを使う金管楽器は、初心者には最初は音が出せません。ヴァイオリンも弓を均等に弦にあてることが難しく、まともな音が出せません。なおかつフレットが無いので、音程も全くコントロールできないでしょう。
それに比べると、鍵盤楽器やサックスなどの楽器は、ただ音を出すだけなら最初のハードルは低いです。

敷居の低さは楽器人口に直接的に影響すると思います。
ピアノやサックスはやはり演奏人口が多いですし、管弦楽器となると桁は一気に下がる気がします。
単に商売のことを考えるなら、敷居が低い楽器のほうが圧倒的に有利でしょう。
敷居の高い楽器は楽器人口が少なくなるので、楽器も高価となり、余計やる気のある人しか買わなくなります。楽器人口内の本格層の比率が高まります。
逆に敷居の低い楽器は、初心者が多くなるので、楽器はコモディティ化しやすくなり、ますます多くの人が練習を始め易くなっていきます。


それから、その楽器が単独でよく使われるものか、アンサンブルを前提としているものかでも趣味層と本格層のあり方に影響を与えることでしょう。
吹奏楽器は単音ですから、実際に音楽に使われる際はアンサンブルになることがほとんどです。このような楽器において、一人で趣味で弾くということはあまりあり得ません。
その一方、ギターやピアノのようなコードを弾ける楽器は一人でも音楽になりやすいので、趣味層が多いと言えると思います。


それぞれの楽器はそれぞれに特徴があり、何が良いか悪いか、というようなことを言うつもりは無いのですが、楽器をビジネスとして考えたとき、たくさん売れる楽器が欲しければ趣味層にアプローチせざるを得ません。

上の考察からは、少なくとも趣味層には演奏の敷居が低くて、一人で音楽全体を演奏できるような楽器が好まれると思います。

あるいは、アンサンブル向けの楽器であったとしても、上のような条件をうまく考えて楽器設計を行なえば、趣味層を取り込むことも出来るかもしれません。
新規性の高い楽器を作って、ビジネスでそこそこの売り上げを出すために(音楽文化的にやや邪道であったとしても)いろいろな工夫をすることが出来るのではないでしょうか。