2014年9月1日月曜日

人はなぜ楽器を弾くのか ─趣味層と本格層─

一人で弾いて楽しむだけの人、他の人に聴いてもらうために演奏する人、楽器を弾く人をこのように分けるなら、圧倒的に多数の人は前者に属します。
ひとまず前者を趣味層、後者を本格層と呼ぶこととします。

趣味層は大多数ではあるのですが、この人たちの行動パターンは本格層の動向に左右されます。演奏についてはある種のヒエラルキーがあり、必ずしも大多数の意向が反映された楽器が売れるわけではありません。この辺りは、芸術に属するビジネスの難しいところではあると思います。

前回、この話をブログに書いたときは、趣味層だけでなく本格層にリーチするような厳しい世界に耐えうる楽器であることが必要ではないか(ちょっと違う表現ですが)といったようなことを主張しました。

とは言え、大多数の趣味層にとっても重要なアプローチはあるのかもしれない、という視点で今回は考えてみたいと思います。


まず、その楽器の敷居の高さは趣味層、本格層の比率に大きな影響を与えると思います。
敷居の高さをもう一段階噛み砕いて言うと、最初に楽器を手にしたとき、いきなりまともな音が出せる楽器かどうか、ということです。
マウスピースを使う金管楽器は、初心者には最初は音が出せません。ヴァイオリンも弓を均等に弦にあてることが難しく、まともな音が出せません。なおかつフレットが無いので、音程も全くコントロールできないでしょう。
それに比べると、鍵盤楽器やサックスなどの楽器は、ただ音を出すだけなら最初のハードルは低いです。

敷居の低さは楽器人口に直接的に影響すると思います。
ピアノやサックスはやはり演奏人口が多いですし、管弦楽器となると桁は一気に下がる気がします。
単に商売のことを考えるなら、敷居が低い楽器のほうが圧倒的に有利でしょう。
敷居の高い楽器は楽器人口が少なくなるので、楽器も高価となり、余計やる気のある人しか買わなくなります。楽器人口内の本格層の比率が高まります。
逆に敷居の低い楽器は、初心者が多くなるので、楽器はコモディティ化しやすくなり、ますます多くの人が練習を始め易くなっていきます。


それから、その楽器が単独でよく使われるものか、アンサンブルを前提としているものかでも趣味層と本格層のあり方に影響を与えることでしょう。
吹奏楽器は単音ですから、実際に音楽に使われる際はアンサンブルになることがほとんどです。このような楽器において、一人で趣味で弾くということはあまりあり得ません。
その一方、ギターやピアノのようなコードを弾ける楽器は一人でも音楽になりやすいので、趣味層が多いと言えると思います。


それぞれの楽器はそれぞれに特徴があり、何が良いか悪いか、というようなことを言うつもりは無いのですが、楽器をビジネスとして考えたとき、たくさん売れる楽器が欲しければ趣味層にアプローチせざるを得ません。

上の考察からは、少なくとも趣味層には演奏の敷居が低くて、一人で音楽全体を演奏できるような楽器が好まれると思います。

あるいは、アンサンブル向けの楽器であったとしても、上のような条件をうまく考えて楽器設計を行なえば、趣味層を取り込むことも出来るかもしれません。
新規性の高い楽器を作って、ビジネスでそこそこの売り上げを出すために(音楽文化的にやや邪道であったとしても)いろいろな工夫をすることが出来るのではないでしょうか。

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